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そこは、世界が自分一人になってしまったのではないか、あるいは、聴覚の機能が失われたのではないかと錯覚させるほど静まり返っていた。
ああ、しかし、後者はない。なぜなら、地面を擦るように歩く自分の足音は、しっかりと耳に届いているからだ。
時刻は深夜。日付が変わってかなり時間が経ったように思える。東の島国では、この時間を草木も眠る何とかかんとかと云うらしい。言い伝えでは、亡霊の動きが活発になる刻なのだと。
(くだらん...)
その薄暗く静まり返った山道を歩きながら、影は自分で自分の思考を一蹴する。
足音の正体。
顔を被った大きなフード付きマントに手持ちのザック。どうみても旅人だ。
月明かりの僅かな光量を頼りに見える体格からは(マントのおかげで着膨れしているのもあって)、どちらの性別ともとれる。
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