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津沼という街は,丁度市境に在って,片方は塾や予備校や,大学が隣接し,学生街として栄えている。
かと思えば,塾からほんの少し入った裏路地は,他市になり,風俗条例が緩和されていて,サンドウィッチマンや,脚を長く魅せ付けた女性が我が物顔で歩いている。
母親が,この街の学習塾に僕を入れたがらなかった理由はそれだ。
だというのに結局,この駅を使わなくては行けないような塾を選ぶあたり,母親は莫迦なのだと思う。
僕を大学生と間違えたらしい客引きの女が,細い腕を絡ませてきた。
真っ赤な口紅を塗った唇は,昼間の転校生を思い出させる。
「沒有錢(金を持っていない)。我是留學生(僕は留学生なんだ)。」
昔,父が言っていた言葉を思い出して見た。
女は僕の腕から離れると,後退りし,愛想笑いで「バァイ」と言った。
中国語と英語の聞き分けもできないのだろうか。
いずれそういった"シモ"の商売だって国際化するだろうというのに,本当に生きる能力が低い。
「ホァンイエン(嘘)」
どこからか,鈴のような声が聞こえた。
「嘘つきだねぇ,小神」
相変わらずくひくひと笑いながら当の転校生が顔を出した。
彼の足にピッタリと張り付くジーンズはその細さを際立たせ、ファーの着いたカーキ色のミリタリージャケットは、彼の華奢さを如実に表していた。
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