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 厚着した躱は彼を中性的に見せ,僕は唇を奪われた。  押し付けられた唇は肉感的で柔らかく,これが本当に男のものかと思えた。  あまりに瞬時の事で,リアクションさえ忘れる。  ただ斜めにずれた視界だけが先刻と異なっていた。  「どおだろ,ぼくと遊びたくなった?」  まるで長年連れ添った恋人みたいに、小春は首筋を抱き寄せる。  細い足で爪先立ちする様は余計に頼りなかった。  「…得体の知れない人間と遊んで内申が上がるのか?」  半ば呆れ,半ば動揺して吐き出す。  小春は首筋にぶら下がったまま,顎を引き,上目に視線を合わせる。  「内申は上がらない」  「じゃあ無意味だ」  細長い腕を振りほどき,踵を返す。  さっさと帰って風呂に入って寝よう。  寝る前にいらぬ仕事が増えて,明日寝不足になったらこの得体の知れない転入生の仕業だ。  「ねぇ,美しい世界を見たくない」  背後から聞こえた声は,夜尚激しい喧騒の中で,確かに僕の耳に届いた。  「生きてることを感じたくない」  甘美な声が、父親の呪詛に腐っていた脳を蕩かす。  導かれるように,小春に向き直っていた。  「ぼくが教えてあげる」  真っ赤な唇が、白い歯を覗かせて蠱惑した。
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