7人が本棚に入れています
本棚に追加
照明の煩いホテルの一室で,小春はジャケットを脱ぎ捨てた。
ベッドに座り込んだままぼんやりと,反芻していた。
美しい世界。
鈴の音のような小春の声が耳に残っていた。
細身のジーンズのポケットに手を突っ込み,小春がコンドームをサイドテーブルに置く。
ラグランシャツを脱ぎ捨てた小春の躱は細いというよりは薄く,陶器のように肌目が細かくて艶やかだった。
勢いよく小春が膝にのって来た。
騎乗位を思わせる態勢。
赤い唇が,再び,重なろうとする。
「…何で動じないの」
ミリ単位に迫った唇が詰まらなそうに呟いた。
「美しい世界を見せてくれるんじゃないのか」
「そういう世界がみたい訳?」
お前のいう美しい世界がどんなものかなど知らないのだ。
取り敢えず付き従うしかないというのに,
「狂言か」
急に覚めた気持ちになって,小春の躱を押しのける。
「くだらないな」
ベッドから立ち上がり,鞄をとる。
「くふふふふっ」
フローリングから,奇妙な声が沸いた。
「ふっ,くふんっ,あははははっ!はははははっ!ふはっ,はぁん」
ごろごろと床中転げ回りながら,小動物が悶絶していた。
「あぁんっ!やだっ!あははっ!はぁっ!」
息も絶え絶えになりながら,それでも笑うのを止めない。
ほとほと呆れ果てて,部屋のドアノブに手を掛けた。
「あはっ,あ,待って,待って」
バネを内臓された玩具のように跳び起き,縋り付く。
「ホントはこっち」
コンドームをちらつかせて見つめた顔に,怪訝を顔中であらわにした。
最初のコメントを投稿しよう!