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 小春の外観は異様に目立った。  東洋人の顔に白髪に近い髪色。  見ようによっては極めて細く薄い金髪にも見えるが,むしろ銀髪に近い。  「アイルランドの皇太子に違いない」  とか,  「実は中国系じゃなくてイギリス系」  とか。  謎の転校生には妙な噂が付き纏う。  別にどうでもいいが。  ただ,実際,小春の白髪は何らかの理由で真っ黒だった髪が色素を失っただけだ。  生れつき遺伝子の成せる技にしてはぱさぱさと手触りが悪く,染毛にしては根本まで綺麗な白髪過ぎた。  栄養失調からそうなったのか,心理的ストレスからそうなったのかはわからない。  知ろうとも思わない。  アイルランドの皇太子で,イギリス系の李小春は,俯いていた。  国語のノートに細く,丁寧で,几帳面な文字を使い,機械的に板書を写す。  書き取りに関して特に問題はない。  漢字も平仮名も隔てなくつらつらと生み出していく。  大きく細い手で書かれる文字は正に,生み出されるに等しかった。  そうして平家没落について書きしるしながら,一方で空白に漢字ばかりのメモをする。  平仮名交じりの言葉は、横型にされた大学ノートの真っ直ぐなラインに寄り添うようにして描かれ,漢字ばかりのメモは,横文字だったり,二重線で消され,訂正されていたりする。  何を書いてあるかなど全く分からないし,分かろうとも思っていない。  恐らく,この白い,小さな頭の中は今,敦盛がどのような最期を迎えたかではなく,やばい薬の捌き方が思考されているに違いなかった。  「李,授業中に落書きするなよ」  たいして本当は気にしていないくせに,僕は模範ぶって注意する。  小春の鋭利な目がするりと僕の顔面を舐め上げた。  「真的別說想也不在的事。(本当は思ってもいないことを言うな。)」  何を言っているのかは相変わらず判らなかったが,見透かされた思いがしたのは確かだった。
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