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生きることの意味は恐らく,酸素と,生き物だったものを無駄に消費する行為だ。
その証拠のように今まで生きて来た僕の頭の中にはくだらない知識ばかりが溢れ,日がな一日人の腹を裂くことばかり考えている。
悪趣味だと罵られるだろうか。
しかしそれは,人命を奪う行為として,『腹を裂く』と捉えた場合にのみ,生じる嫌悪だろう。
僕は将来の夢を書く作文に,『優秀な医者』と書いた。
そしてもっともらしく,生命の尊さを記し,祖父の死を悼む好青年らしい文書を若干難解な言葉を交えて書き連ねた。
僕の字は角張って右肩上がりだ。
その筆跡は神経質を表しているとは,周囲の目と,息子の進路にばかり興味が行く母親の言葉。
医者になりたいのは,祖父の会社を継いだ,父の夢。
生まれた時から今まで。
恐らく,物心つく前から父の万冠の想いを込めた,
福音の様な,
賛美の様な,
忌言の様な,
呪詛の様な言葉を,
耳殻から脳髄へ注ぎ込まれてきた。
僕が生きる意味など,利己的な両親の玩具でしかない。
だとしたら恐らく,僕の存在そのものは,酸素の無駄と,生き物だった物の,無駄に過ぎないのだろう。
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