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 冬の陽光は暖かく,うんざりするほどに長閑だった。  3年の教室が,1階ではなく,3階だったら,多分僕は飛び降りていただろう。  別に受験勉強の疲れからとかではなく,気持ち的なもので,小春日和というのは,人を飛びたい気持ちにさせるのだ。  僕は頬杖をついて窓の外を見た。  眼鏡と,窓ガラスを隔てた向こうに,正門がある。  いっそそこから,包丁を握りしめた半裸のおっさんが,乗り込んできたらいい。  そして,僕と目を合わせ,目の前の窓ガラスをかち割って,教室は阿鼻叫喚地獄に陥る。  スクール・アタック  そんな妄想を抱いた。  「あ。」  空気に色をつけたような声が,唇から洩れた。  真っ白な頭が,正門を軽やかなリズムで通り抜けて行った。  学ランに,真っ白な髪はやけに目立った。  白い髪が,風に吹かれて舞った。  切れ長の美しい瞳が,僕とかち合った。  赤い唇が,弧を描く。  『漂亮』  祖父の部屋で見た,一葉の写真を思い出した。  ピャオリャン  黒髪の,切れ長の瞳。  白髪の少年が,写真の女に重なった。  これが,僕とコハルの出会いだった。
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