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 何を言われた?  パンパン?  「カンナギ,What is your first name?(下の名前は?)」  僕の横の席に座りながら,見惚れる程の笑顔で小春が笑った。  ガタガタと音を立てて,机をくっつける。  大方教科書がそろっていないとか,ありがちな理由だろう。  「絢睦」  「ア,ヤチ?」  真っ赤な唇から,真っ赤な舌が,独特の生き物みたいに動いていた。  真っ白な髪に,真っ黒な目,真っ赤な唇。  奇妙なほど,唇が目を引くのは,色調のためなのだろうか。  「あやちか」  僕はゆっくりと発音する。  耳元で,鳩の鳴く声がした。  「難以招呼(呼び難い)」  その声に小春を振り返ると,その餓えた瞳が鼻先が触れる擦れ擦れに迫っていた。  「小神(シャオシェン)」  細く長い指先が,僕のシャープペンを奪い,作文用紙の端に,【小神】と書く。  細く,輪郭さえ朧気なその文字は,彼の,印象を得体のしれないものにした。  「別尋求変革。親自変。」  歌うように,彼は呟いた。  言葉の意味など,ほんの一欠けも判らなかったが,自分を見透かされたような,所在ない心地になった。
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