始発

2/6
前へ
/19ページ
次へ
俺が記憶喪失になって三年が経った。何も分からない俺は雅樹さんに頼りきっていた。これではいけないとは思っているが記憶がない不安から頼ってしまうのが本音だ。 今は雅樹さんの家で家事をして暮らしている。雅樹さんに喜んでもらいたくて、俺は必死に料理を覚え、今ではずいぶん上達したと思う。 「ただいま。」 「お帰りなさい。」 雅樹さんは家に帰るといつも、俺を抱き締める。まるで、俺の存在を確かめるかのように。 原因はきっと、記憶がなくなる前の事なのだろう。記憶がなくなる前の事は雅樹さんは何も答えてくれない。 「今日は何を作ったんだ?」 「いつも和食だから、今日は洋食にしたよ。あ、雅樹さんが嫌いなチーズはないから安心して。」 こうしていると本当の夫婦のようだと思う。 もし、俺が女だったら子供を産んで、家庭を築きたい。無理な事なのだけれど、願わずにはいられない。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

311人が本棚に入れています
本棚に追加