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この幸せは本物ではないから、こんなにも簡単に崩れ去るなんて、この時の俺には想像もつかなかった。きっかけは一通の手紙だった。
「……?」
雨宮慶と書かれた白い封筒。宛先には俺の名前が書かれてあった。俺宛に届いた事は一度もなかった。俺は不思議に思いながら、中身を見る。
「……?」
そこには綺麗な字が並んだ便箋が一枚。
たった一行だけの言葉と電話番号が書いてあるだけだった。
「記憶を取り戻したくないか……か。」
俺は決心が付かず、引き出しの中にそれをしまった。これを雅樹さんに言ってはいけない気がした。
「……」
初めて、記憶を取り戻したいと強く願った。
けれど、こんな手紙は怪しすぎる。俺の頭はその事でいっぱいで、料理も若干、失敗してしまった。
「ごめん、ぼーっとしてたら、焦げた……」
雅樹さんが帰ってきて、俺は素直に謝った。雅樹さんにはいつも美味しいものを、って思ってたのに。
「大丈夫だ。これぐらいなら、十分食べれる。」
雅樹さんの優しさが胸にしみる。こんなにも優しい人を俺は裏切ってもいいのだろうか。
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