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ひとしきり前川の嗚咽は続いた。
若い女性の涙に、武ノ内はひとひらの動揺もない。
ただ…
辛い気持ちが分からないわけでもない。
だから待つ。
依頼者の幸せを祈りつつ
占い研の部室内が淡いブルーに染まる頃、ようやく前川は顔をあげた。
「ありがとう…」
「君の望む答えにならなくて、申し訳ない」
前川は顔を横に振る。
「わかってたから…」
前川の唇に、ほんの薄く笑いが浮かんだ。
「なぐさめとかじゃなく」
武ノ内は優しく語る。
「まもなく、新しい恋に出会うよ。 友達のうちの一人、かな」
「優しいね、武ノ内くん」前川はようやく笑顔になった。
「氷見子様のカレシじゃなかったら、好きになっちゃうかも」
氷見子は先輩からも、なぜか『様』付けで呼ばれている。
「いや、カレシじゃないけど」
と武ノ内は心の中で叫ぶ。
「羽田は…バイト先で好きな女が出来たみたい…」
前川は遠い目をした。
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