一章

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ひとしきり前川の嗚咽は続いた。 若い女性の涙に、武ノ内はひとひらの動揺もない。 ただ… 辛い気持ちが分からないわけでもない。 だから待つ。 依頼者の幸せを祈りつつ 占い研の部室内が淡いブルーに染まる頃、ようやく前川は顔をあげた。 「ありがとう…」 「君の望む答えにならなくて、申し訳ない」  前川は顔を横に振る。 「わかってたから…」 前川の唇に、ほんの薄く笑いが浮かんだ。 「なぐさめとかじゃなく」 武ノ内は優しく語る。 「まもなく、新しい恋に出会うよ。 友達のうちの一人、かな」 「優しいね、武ノ内くん」前川はようやく笑顔になった。 「氷見子様のカレシじゃなかったら、好きになっちゃうかも」 氷見子は先輩からも、なぜか『様』付けで呼ばれている。 「いや、カレシじゃないけど」 と武ノ内は心の中で叫ぶ。 「羽田は…バイト先で好きな女が出来たみたい…」 前川は遠い目をした。
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