一章

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その時 占い研の部室の扉を軽く叩く音がした。 「どうぞ」 武ノ内は扉に声をかける。 がらりと引き戸を開け、一人の女子生徒が入って来る。 長い髪。 付け睫毛が重い。 充血した眼と荒れた肌。 「うまくいかない恋愛相談?」 「うそっ! なんで分かるの?」 占いの手法の一つである。 たいがい女子高生の悩みは限定されている。 恋かトモダチか、まれに進路。 表情と風体から察するに、入室してきた女子の悩みは、間違いなく恋愛。 そもそも、ラブラブで幸せな奴なら、占い師のところへ目を腫らして来たりはしない。 「当たるって聞いてたけど、ホントなんだね」 武ノ内に促され、椅子に座った女子生徒が呟く。 武ノ内の占いは、小賢しい手法など使わなくても、十分当たる。 ただし、悩みが深くて、なかなか本題に入れないタイプには、たまに使わせてもらっている。 「占い希望?」 女子生徒は小さく頷く。 「じゃあ、ルールは知ってるね」 「松高占い研、占いは悩み一つにつき一回きり。鑑定料は好きなだけユニセフの募金箱へ…」 「オッケー えとあなたの名前は?」 「前川玲那」 「では前川さん、今日は何の未来が知りたい?」 夏を迎える夕暮れは、べっこう飴の色を宿していた。 いつのまにか、氷見子の姿はなく、その代わりなのか、ラベンダーの香りが室内に漂っている。 「やり…」 ぽつり前川が言う。 「やり直したい…」 涙がひとすじ 「やり直したいの……羽田と」
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