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明日への変化 -Epilogue A-
不気味なほどの静寂。
これが戦いの後だと思うと、余韻も醒めてしまう気がした。
「ホント、君は解らないやつだよ」
月明かりに照らされながら、地面に直接座った彼女が苦笑混じりに口を開く。
俺も口の端を緩める。なんともぎこちない笑みだった。
「しかし、君はこれで良かったのか? あんなことをして、ただで済むとは思ってないだろう?」
「まぁな」
そう。俺は倒してしまった。
最強を冠した怪物を。
しかし不思議と後悔などは感じていない。
最強を越える力を手に入れたせいか、彼女を守れた達成感の為か、自分のことなのによくわからない。
ただ、これだけは言える。
「俺さ、実はこのままでもいいかなって思い始めてるんだ」
「化け物なのに?」
「ああ。……だって、普通に生きてれば不自由どころか便利じゃんか、この体」
それを聞いて、彼女は一瞬ポカンとしてから吹き出した。
抑えていた笑いを堪えきれないという感じだ。
「君は変わったな」
「……え?」
「一時期は、絶望のドン底みたいな顔をしていたじゃないか」
「う……。ま、まぁそんなこともあったかな」
「ふふ、強がりは可愛くないぞ?」
どこまでも心の奥底を見透かしてくる彼女。今ではこのやり取りも、心地よいものになっている。
ふと空を見上げる。
少し蒸し暑いくらいの夜空には、巨大な青白い月が煌々と輝いていた。
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