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バタン、と背後でドアが閉まる。…訂正する。俺が閉めた。
これも俺の意思ではない。まるでアリアに言われたことに服従しているみたいだ。
そういえば、明かりをつけようとした手も諦めた途端に自由になった。マジでどうなってんだ。
改めて資料室内を見渡す。相変わらず暗い。
しかし何度か瞬きを繰り返していると、暗闇にも慣れてきた。
ファイルの棚を抜けると、そこには不敵な笑みを浮かべた吸血鬼が、せっかく片付けたファイルを無造作に積み上げ、そこに座っていた。
なんてことをしやがるんだコイツ。
「驚いたか?」
この蒸し暑い中、アリアは汗という汗をかいてなかった。
それどころか余裕な表情まで浮かべている。
「まぁな。何なんだ、さっきの」
「絶対命令<エンペラーヴォイス>」
聞いたことのない単語に首を傾げる。
エンペラーボイスって…なんだ?
「一過性の催眠術みたいなものだ。意識を狭窄させて、ひとつの事象が脳を占領することによって暗示をかける。言うなれば、君が私の従僕になったことの枷だな」
「…スマン、ますますわからん」
「簡単に言ってしまえば、君は私の言うことに逆らうことが出来ない。どう抵抗しようとな」
なんつーこっちゃ。つまり俺の自由はコイツに握られちまったということか。
冗談じゃないぞ。こんなんで夜な夜な命令されてちゃ俺の身が保たない。
焦燥の色を滲ませる俺の表情を読み取ったのか、アリアは安心せい、と前置きして、
「君がこうなってしまった原因は私にある。君をどうこうするつもりはない」
笑いながら、そう言った。
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