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「私が吸血鬼になって、そろそろ500年ほどになる。細かい数字は覚えていない。300年を過ぎた辺りから、数えるのが億劫になってな」
ご、500年って…。日本じゃ戦国時代くらいだったか?
そん時からずっと生きてるってことかよ。えらく長生きしてるな。
「人間の頃は欧州にいた。貴族の娘としてそれなりにいい生活を送ってたよ。…だが、そんな生活を、私は奴によって壊されてしまった」
「…奴って…?」
「私の血を吸い、父と母を喰った吸血鬼の真祖だ。奴によって私は眷属にさせられ、夜の世界へと身を投ずることとなった」
アリアの表情が徐々に苦々しいそれに変わっていく。
言葉の端々に、怒りや憎しみの念が感じられた。
「しかしな、やはりあの時の私はまだ人間だった。君みたいに、体ではなく、心が。…哀願したよ。懇願と言い換えてもいい。貴族だった誇りや体裁、全てをかなぐり捨て、地に額を打ち付けて人間に戻して欲しいと頼んだ」
そんで今尚吸血鬼の身ってことは…やっぱりダメだったんだろうな。
「奴は下僕として成果を上げれば考えてやらなくもないと言った。私は藁にもすがる思いで奴に従った。しかし──」
アリアの言葉が途切れる。
見れば、俯き手をわなわなと震わせる吸血鬼の姿があった。
「数十年が経ったある日、奴は私の前からいなくなった。それ以来、奴とはあってない。生きているか、死んでしまっているのか…それすらも不明だ」
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