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吸血鬼は急にファイルの山から降り、晴れやかな笑顔を浮かべた。
何か吹っ切れた笑みだったが、頬には涙の筋が残っていた。
鼻をすすり、アリアは言う。
「暗い話になってしまったな。すまない。なぁに、私は君を人間に戻すまで姿を消したりしないよ。手違いとは言え、責任の一端は私にもあるわけだからな」
「あぁ、よろしく頼むぜ?」
そう言って、俺たちは握手を交わした。
アリアにつられて俺も笑顔になる。
だが──
「さーって、そこでなんだが…」
吸血鬼の笑顔が歪んでいく。
なんとも言い難い、邪気を孕んだ表情に、俺は思わず後退りしかけたが、握った──いや、握られた手がそれを防いだ。
なーんか嫌な予感…。
「私は元の体に戻る為に、生命力が要る。解るな?」
「あ、あぁ…」
「その為にはどうすればよい?」
「…さぁ?」
「こうするんだよ」
いきなり手を引っ張られた。不意の事態に俺は何も出来ず、アリアに近づいていく。
そして──
アリアが首筋に噛み付きやがった。
「いってぇえ───!!?」
「あん、動くな。うまく吸えないだろうが」
昨日みたいに牙がめり込んでいく。体の奥から肉が千切れていく感覚がするくらいだ。
抵抗し、なんとか引き離した頃にはアリアはもう十分なくらい俺の血液を吸い取っていた。
唇に付着した残りを舐めとる仕草とか、何とも満足げだ。
こちとら急襲されて痛みにのたうち回ってるってのに…。
俺が聞こえるくらいに大きく喉を鳴らしながらそれを飲み込み、吸血鬼は言った。
「ま、こんな風にな。…ふむ、案外同族の血もイケるものだな、新しい発見だ」
わざわざ俺で実践するこたねぇだろこのくそ女…。
涙目になりながら、俺は心中で悪態をついた。
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