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時が経つのは早いもので、ゲーセンから出た頃には、外は既に暗くなってしまっていた。時計は7時を回っている。
「いやー、すっかり陽も落ちちゃったねぇ。どうする二人とも。どこかで何か食べてく?」
そう提案してきたのは柊だ。これには俺も、少し迷ってしまった。
いくらクレープを食べたからと言って、成長期真っ盛りの胃袋がそれを許す訳もない。
事実、俺は腹が減っていた。胃の奥が明らかな空腹を訴えているが、これ以上の出費は今後の生命線に関わる。
それに帰れば夕食が待ってる。無下に外食で金を減らすこともないのだ。
…今日はやめておくか。
「悪い。俺は先帰るよ」
それだけ言い、返事も待たずに我が家へ走り出した。
あんまり長く居ても、柊にしつこく言われるだけだろうしな。
夜道を駆ける。
空を見上げると、珍しいことに雲一つなかった。数多ある星々と、青白く光る巨大な月が、闇を静かに照らしていた。
月宮の言葉がなかったら、もう少しゆっくり帰路につこうと思ってたんだがなぁ。
夜道を駆ける。
(………?)
唐突に、俺は足を止めた。息を殺し、周りを見る。
…………………………。
妙だ。物音一つしない。一応ここは住宅街だ。それなりの生活音があってもいいはず。
なのに、人の気配すらしないってのはどういうことだ。
背中に冷たいものが走る。徐々に心の中で焦りが生まれ、息づかいが荒くなる。
しかしそれでも、我が家に辿り着くには足を動かし、歩を進めなければならない。
俺は辺りに注意を配りながら、先ほどまでとは言わずとも、早足で家へ向かう。
その途中である。俺の十六年という人生の中で、最も死に近づくこととなったのは。
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