一章-朝焼け-

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それからの日々は早く過ぎ、あっという間に一ヶ月が経った。 「いよいよ、今日だね。」 僕は寂しさと不安な気持ちを持ったまま君と話す。 自転車は一つ。 少しだけ錆び付いた僕の自転車。 「さぁ、乗って?」 僕は自転車に乗って、後ろを指差す。 君は一度だけ頷いて、 「うん、ありがと」 いつもと変わらぬ笑顔でそう言って乗った。 「しっかり捕まってなよ?」 そう言って僕はペダルをこいで、自転車は走り出す。 明け方の駅へと向かって。 少し錆び付いた車輪がカラカラと音を立てているけど、全く問題は無かった。 いや、それがないと僕の自転車だと思えない。 そんな事を思いながらペダルをこぐ僕の背中には確かな温もりを感じる。 温かくて、存在感のある、温もり。 寄り掛かる君から伝わるもの。 それを感じながら、線路沿いの上り坂を上っていく。 駅まであと少し。 その時の君の言葉が楽しそうだった。 「もうちょっと、あと少し」 僕に頑張るように言ったのか、街が楽しみだったのか僕にはわからなかった。 町は朝早いからか、静寂に包まれていて、とても静かだった。 君は呟くようにこう言った。 「世界中に二人だけみたいだね。」 笑いながら、冗談を言うように。大袈裟に言った。 同時に僕は言葉を失った。 君の言葉に、言葉が出なくなったわけじゃない。 坂を上り切った時に僕たち二人を迎えてくれた朝焼けが、あまりにも綺麗過ぎて言葉を失った。 あの時、君は笑ってただろう? 僕の後ろで、笑い声が聞こえていたからわかるよ。 君は笑っていたはず。 でも僕は振り返る事は出来なかった。 君の事が嫌いだったからじゃない。 泣き顔を見られたくなかった。 何故泣いたかはわからない。 君と見た朝焼けが綺麗だったから? 君と離れ離れになるから? 今でもわからない。 僕の頭では答えを見付けられない。 でもあの時、不思議と涙が溢れて来て、君と一緒に笑い合えなかった。
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