本戦 闘争と血

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片膝を着いて荒い息を吐く一年生。魔力も残り少ないのだろう、フラフラと左右に揺れている。目の焦点は定まっていないように見えるし、瞼が半開きだ。 「俺の勝ち、だな」 「……い、え。俺はま、だ、やれま、す……」 息も絶え絶えに反論するが、限界は誰の目にも明らか。しかしシンスは一年生の意思を尊重するように魔力を練る。 既に魔力を感知することすら出来ないだろう一年生は、シンスの動きにまるで気付かず体力の回復を図っている。 シンスはそんな様子を溜息を吐きながら観察し、魔力を変換する。 「『地腕拘抱』(ちわんこうほう)」 土の腕が地面から生え、一年生を石の床に叩きつけて拘束する。その衝撃で今度こそ一年生の意識は断たれ、勝利宣言が齎される。 『勝者、シンス!』 飽きもせず、相変わらずの歓声が響き渡る。 流石に二連戦は疲れたのか、溜息を吐くシンス。一度こっちに退散してくる。 「レイ、水取って」 「ほらよ」 喉が渇いたのかそう要求して、ステージに上がる階段に座るシンス。近くにあったペットボトルを投げ渡す。 ついでに近くにいた結衣に小声で話しかける。 「ほら、チャンスだ。頭でも撫でて労ってこい」突然の命令に困惑の顔を見せる結衣。指令の意味が分からなかったのだろうか。 「疲れてるときに優しくされて嬉しいのは、男も女も同じだ、ってこと。ほら、行ってこい」 言いながら結衣の背中を押す。あくまで自然に結衣が動いたように見せる。
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