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14:04
――生産地区 農業区――
志乃とパン屋で別れた後、庄は生産地区の中にある、農業区へと来ていた。
ここは見渡す限りの田園風景で、田んぼの中ではせっせと作業をする若者が、汗を流している。
彼らの表情や仕草がどこか清々しいのは、根底に流れる農耕民族の血ゆえか。
ここでの生産物は区画中央の管理塔で一度集積され、倉庫が在庫切れしない程度の適量を出荷する仕組みだ。
また、出荷前には様々な科学検査があり、今回の毒混入が発覚したのはそのおかげである。
(他部署と分担するのは、あまり効率的じゃないんだけどなあ。原因解明は生産局、価格調査は流通管理局、毒の除去に保険局っていう面倒な事になってる。)
庄はそんな事を考えつつ、管理塔の自動ドアをくぐる。
業務分担には、こういった副作用も存在するのだ。
だから本来、部門の問題は各自が自力で解決する決まりなのだが、ここまで大きな事件となると、一つの部局では人員が圧倒的に足りない。
そこで止むなく提携しているのだが、その問題点がこうしてダイレクトに表れてしまっている。
塔の一階はビジネスビルにありがちな設計で、受付と上階へのエレベーターのみという簡素なものであった。
「ええと、せんべい?」
「いりもちです!」
「ああ、そうでした。主任は会議室におりますよ。」
若い女の受付に話し、農業区主任の居場所を聞き出す。
既に一度、同じ様にして取り次ぎをしてもらっていたので、相手も心得たものだ。
但し名前以外は。
「ありがとうございます。」
「いえいえ、私も早く終わらせて帰りたいですから。」
厄介ごとに対する感想は、どうやら万人共通のようだ。
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