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「我々国士一同は、大和民族の誇りを貶める貴様等を絶対に許容しない。」
ある日突然、封筒に入ったこんな文書が市役所の苦情処理課に届いた。
消印はなく、市役所のポストに直接入れられた物、というのは明白である。
これを見た担当者は半ば当然の事であるが、いたずらか何かで送られたのだ、と思っており上司に報告するつもりもなかったのだが、ある書類を提出する際、誤ってそれを渡してしまう。
これが大きな間違いで、結果として封筒は今、市長の机の引き出しにしまわれているのである。
「右翼団体あたりが送ったのは分かってるわよ。それで、私は市長としてどうすれば良いのかって聞いてるの!」
ただ一人に割り振られるにはいささか豪華で広い部屋に、女の大声が響く。
自らを市長と名乗る彼女は、備え付けの固定電話ではなく、自らの携帯電話で通話している。
これは電話をしようとした相手が私的な知人であり、電話帳を普段使うためにその番号を覚えていないという、現代人にありがちな状態になったためである。
そうしてしばらく議論していたのだが、市長は徐々に怒りはじめ、遂に彼女の理性の防波堤は荒れ狂う怒りの潮流の前に決壊してしまった。
「もういい、今から直接そっちに行くから!教えてくれるまで絶対に帰らないわ。」
有無を言わさず電話を切り、つい先日買ったばかりのコートのポケットに放り込む。
そして件の封筒を乱暴に引っ掴んで、市長は我城を後にした。
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