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――居住区 志乃の家――
築三年二階建て、庭とガレージ付き木造一軒家。
志乃の実家は、そんな感じのありふれた家であった。
同じ通り沿いには、彼女の家と似たようなそれが、無数に建てられている。
「ふんふんふーん、ただいま。」
鼻歌を歌いながら、志乃は自宅の玄関の扉を開けた。
両手には、重たい買い物袋を二つずつぶら下げているが、本人は余裕の表情である。
「おーう、よう帰った。早く昼ご飯作っとくれー。」
絨毯にゴロゴロと寝そべり、右手を軽くあげて返事をするのは、志乃の姉の御代(みよ)である。
「もう、姉さんも寝転がってばかりいないで、買い物を片付けるのを手伝ってちょうだい。」
「何処になにがあるか分からなくなるのと、今苦労するのと、どっちがいい?」
あまりの怠惰っぷりに志乃は苦情をつけるが、そんな事を言い、軽く受け流される。
「……自分でやるわ。」
志乃も困り、ついこういった返事をしてしまう。
「よく働く妹を持って、あたしは幸せ者だよ。」
葛切家名物の、定番のやり取りである。
そうしている内に、奥の部屋から母親が顔を出した。
「あら、帰ってたのね。私も手伝うわ。」
ぐうたらな姉とは、大違いの母親である。
雑なお父さんに似たのかな、と志乃が思っていると、母が突然何かを探し始めた。
「ねえ志乃ちゃん、お米は?」
「あー……。」
パン屋で庄と値段の話をしたにも関わらず、すっかり買い忘れてしまっていた。
そそっかしい彼女だが、この事からも分かる通り、その度合いはかなりのものである。
「お米無しじゃ、ダメ?」
「駄目に決まっているでしょう。」
期待もせずに聞いてみるが、返答は予想通りであった。
「そ、そうよね……仕方ない、また買いに行くわ。」
葛切志乃、本日二回目の外出である。
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