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15:34 ――中央部 日昇市市役所―― 庄が市役所のビルに戻ると、入り口にある大きな大理石の階段で、何やら憤慨した様子の市長とすれ違った。 「まったく、どうしてこう面倒ばっかり…。」 などと小声で愚痴をこぼしていたので、刺激しないよう配慮しながら階段の端を歩き、やり過ごす。 庄はしばらく様子を見ていたが、やはり気にしないことにしようと決めて、流通管理課のある12階へとエレベーターで上がった。 この階は三つの大部屋があり、一つは大資料室、残りの二つには流通管理課と資金管理課が入っている。 資金管理課はいわゆる出納課のようなもので、市の収支を管理するのが仕事だ。 ちなみに、何故か後から入居した資金課の方が面積が広く、流通課は最も小さい部屋を使っている。 庄はオフィスに戻ると、持っていた鞄を椅子に放り投げた。 彼のデスクは、重要書類以外の紙はぞんざいに山積みにされ、引き出しの中は小物でごちゃごちゃとしており、実に汚い。 「あ、おかえりせんべい君。どうだった?」 庄が机の整理を検討していると、何やら嬉しそうな同僚の女が近づいてきた。 同い年という共通点と、同期という連帯感からか、彼女は何かと庄に絡んでくるのだ。 対する庄もくだけた口調で話すなど、仲の良い同僚として付き合っている。 彼女の名は三田良 鞠音(みたら まりね)、常に笑顔で何かを楽しんでいる、変わった女だ。 「まあ何とかなりそうだ……というか、僕の名前はいりもちだ。いい加減覚えてくれよ。」 「あはは、そうだった。そんな事より、ちょっとは机を整理しなさい。片付けもできないんじゃあ、いつまで経っても独身だよ。」 「独身は放っといてくれ!」 新社会人で既婚というのもあまり無いのだが、庄の友人に結婚している者が多いせいで、気にしているようだ。 庄は渋々と片付けを開始して、取り敢えず紙の山に手を付けようとするが、うっかり別の山に肘を当ててしまう。 「何やってんだか。そうそう、もうすぐ私の知り合いが来るから、この封筒を渡しておいて欲しいんだ。ちょっと出かけなきゃなんないのよ。」 「はいはい、これを渡すだけでいいんだな?」 「うん、絶対にお願いね。じゃ、行って来まーす。」 すると三田良は荷物を抱え、後ろで一本に纏めた髪を縦横に揺らしながら、さっさと行ってしまう。 その背中を眺め、散らかった紙を見て溜め息をつきながら、庄は回収に励むのであった。
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