6人が本棚に入れています
本棚に追加
16:45
――商業・居住区を結ぶ道路――
夕方の商業区の主役は、スーパーマーケットである。
この時間帯の買い物客は、翌日以降の分まで済ませようとする場合が多く、まとめて買い物のできるスーパーへと集まっていくのだ。
また、夕方に生鮮食品に値引きシールが貼られるのも、客が集中する原因の一つである。
安い惣菜を買い漁る主婦、会社帰りにお使いを頼まれたサラリーマン、食玩を求める子供と壮絶な戦いを繰り広げる母親など、客層も幅広い。
そして当然、商店街は過疎化し、歩行者はただの通行人や散歩をしている老人ばかり。
そんな寂しい商店街で買い物を済ませ、志乃は自宅への帰路を辿っていた。
米屋で1キロの米(あきたこまち)を二つ買い、両手に袋をぶら下げながらである。
慣れているとはいえ、やはり重たい事に変わりはなく、たまに地面に置いたりなどしている。
商業区から居住区までは徒歩でおよそ10分の距離で、志乃はその道のりを、重しを付けて帰らなくてはならないのだ。
「ううん、辛い時ほど道のりが遠く感じるっていうのは、本当みたいね……。」
内心では相当苦しんでいるが、困ったように微笑んでいるような表情であるため、傍目には全く辛そうには見えない。
志乃は、楽しい以外の感情が顔に出難いのだ。
そうして休み休み歩いていると突然、背後から声をかけられた。
「大変そうだな、一つ持ってやろうか?」
振り返ると、短髪で志乃よりも若干身長の高い女が、心配そうな顔をして立っていた。
そして、よこしな、と言い志乃の右手から袋を攫って担ぎ、平然と歩きだす。
「すみません、助かります。」
「いやいや、これぐらい通信装備に比べたら全然……って、分かんないよなあ。」
民間人には意味不明なことを言ってしまったことに気付き、女は自嘲気味に笑う。
「そういえば、貴女はどちらへ行かれるんですか?」
「ん、ああ、ちょっと市役所の方にね。」
「そうですか。あの辺りは、最近誘拐事件とかが多いので、気を付けて下さいね。」
「分かった、注意するよ。」
口には出さないが、巻き込まれたら逆に捕まえてやろうか、と女は思っていた。
そうしてしばらく歩いていたのだが、居住区に到着したところで
「あ、もうこの辺で結構ですよ。」
あまり長く持たせては悪いと、という罪悪感から、袋を返してもらった。
激しい性格の女と、遠慮しがちな志乃。
実に、正反対の性格の二人であった。
最初のコメントを投稿しよう!