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――同時刻 日昇市某所―― 洗脳というと、どこか空想科学的なものを伴う、という印象を受けるかも知れない。 しかし現代において、それは科学的解明に基づいた一つの技術として、立派に確率しているのだ。 例えば、映像の中にある内容の含まれたコマを入れる、サブリミナル効果。 また、効き目があると思い込ませる事で実際に効能をもたらす、プラシーボ効果。 これらもある種の洗脳であり、我々の身近にも、五万と溢れているのだ。 「はい、一人終了。後はこの子だけだねえ。」 暗い洗脳室で、一人のくたびれた服装の男が、拉致した人々に洗脳を施している。 その中身は大したことではなく、ただ命令には確実に従うよう仕向けるのみ。 ヘッドフォンをかけさせ、三から四時間近く、大音量で洗脳の文言を流し続けるだけというお手軽さだ。 男が洗脳を終えて待っていると、次の対象が速やかに部屋へと運び込まれた。 「しかし、こんな小さな子供まで使うとは、彼らも容赦が無い。まあ、私は一向に構わないがね。」 薄く笑う男の目の前には、目隠しをされて手足を縛られている、十歳前後の女子が横たわっていた。 彼女は夕方に庄と志乃が見た、パン屋のレジ打ちをしていた少女である。 夕飯の買い物に行った帰り道で、適当な人間を探して待ち伏せていた彼らの目にとまり、拉致されたのだ。 しかも、身に纏った服が数ヶ所破れており、目を覆う布の端からは一筋の水滴が流れ落ちていた。 「ふむ、どうやら私達の中には、とんでもない変態がいらっしゃるようだね。」 「もう、いや…。」 「あとしばらく辛抱しなさい。そうすれば、何も考えなくて済むからね。」 「お願い、もう止めて。どうして私が、こんな目にあわなきゃいけないのよ…。」 「何でだろうかね。この町に住んでいたから、偶然あの道を通ったから…まあ一言にまとめれば、不運ってやつだ。」 「ゆ、許して。」 「残念だけど、それは無理な相談だねえ。」 そう言って、男はヘッドフォンを少女にかける。 部屋に、絶叫が響いた。
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