ラブストーリーは突然に

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 空は青く高く広がり、柔らかな陽射しが降り注ぐ、秋。辺りからは楽しげな笑い声や、出店の売り子の元気な声がする。今日はうちの中学の文化祭だ。鼻をくすぐるクレープやら焼きそばやらのいい香り。昼からクラスの出し物の宣伝廻りをしている私は、ぐぅ~と情けない音を出すお腹を窘め、正門のメインゲート付近を歩いていた。時折吹く風は少し冷たいが、今の私は全然平気。何故なら―― 「わー!うさぎだー!!」 「だっせー!!こんなの中に人間が入ってんのぐらい知ってるよーだ!!」  差し出した風船だけは引ったくり、子供達はピンクのうさぎの着ぐるみを着た私に容赦なく殴る蹴るの暴行を加えてくる。子供の力だから大して痛くはないが、もうかれこれ2時間はうさぎをやっていて疲弊しきった私には、結構堪えるものがある。 (このクソガキども…!)  目一杯睨みを効かせても、所詮は着ぐるみの中でのこと。今の私は相変わらずヘラヘラと情けない笑みを浮かべるうさぎでしかない。 (でぇぇぇい!!)  ダン!!と怒りに任せて地面を踏み鳴らし、ようやく子供達を追い払う。満足はしたが、足に電気が走り、私はピョンピョンと跳びはねた。うさぎだけに。 「危ないっ!!」  不意に聞こえた声。そして、悲鳴。何事かと思い首を廻らせるが、着ぐるみのせいで極端に視野の狭い私には何が起きているのか分からない。はた、と頭上を見れば、眼前には「祭」という大きな文字。  ヤバい…!!そう思った瞬間、ガシャーン!!というけたたましい音と共に、私は地面へと倒れ込んだ。
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