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「君!!大丈夫?!」
肩を揺さぶられてふと我に返る。倒れた拍子に着ぐるみの頭は脱げてしまったのだろう。急に視界が開けて陽射しが眩しいのもあり、ゆっくりと目を開けると、そこにはパッチリ二重で茶色い瞳が印象的な男の人がいた。気付けば私はその人にしっかりと抱きかかえられている。思いも寄らない出来事に、私の心臓はバクバクと鼓動を速めた。
「何かの拍子に落ちてきたみたいだね。どこか打ったりしてない?」
見ればすぐ傍に「祭」と書かれた看板が横たわっていた。その大きさ、およそ1メートル四方。こんなのが直撃していたら…、想像するだに恐ろしいが、当の私にはかすり傷一つなかった。まぁそれもこれも、全身に纏ったうさぎの着ぐるみのお陰だったのだろうが。
「だ、大丈夫みたいです…」
「そっか。よかった」
そう言ってニッコリと笑う彼。やばい、かっこよすぎる…。大人びてはいるが、見慣れた制服を着ているからうちの学校の生徒なのだろう。
「真壁ー!!どうしたー?!」
「ああ、急に看板が落ちてきたんです。大丈夫、怪我人はありません」
「ひゃっ…?!」
見れば、秋も深まってきたというのに半袖Tシャツの体育教師が、土煙を巻き起こす勢いで走って来る。真壁、と呼ばれた彼は不意にヒョイッと私を背におぶると、校舎に向かってスタスタ歩き出した。
「あ、あの…!」
「君、クラスは?」
「え?えと…2年1組です…」
「そっか。じゃあ1コ下なんだね。名前は?」
「天見…愛流です…」
「愛流ちゃんか。保健室まで連れて行ってあげるよ。今はどこも痛くなくても、後から痛くなってくることもあるしね。着ぐるみはクラスの誰かと変わってもらうといい」
「あ、ありがとうございます…」
(1コ上…3年生なんだ。真壁先輩、優しいなぁ…)
うっとりと温かな背中に身を任せていると、無情にもすぐに保健室に着いてしまった。重くなかったかな、と心配半分、残念な気持ち半分。誰かクラスメイトを呼んでくる、と言って保健室を出て行った真壁先輩を見送ると、私は着ぐるみを全部脱ぎ、制服姿になった。
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