ラブストーリーは突然に

3/4
前へ
/31ページ
次へ
「君!!大丈夫?!」  肩を揺さぶられてふと我に返る。倒れた拍子に着ぐるみの頭は脱げてしまったのだろう。急に視界が開けて陽射しが眩しいのもあり、ゆっくりと目を開けると、そこにはパッチリ二重で茶色い瞳が印象的な男の人がいた。気付けば私はその人にしっかりと抱きかかえられている。思いも寄らない出来事に、私の心臓はバクバクと鼓動を速めた。 「何かの拍子に落ちてきたみたいだね。どこか打ったりしてない?」  見ればすぐ傍に「祭」と書かれた看板が横たわっていた。その大きさ、およそ1メートル四方。こんなのが直撃していたら…、想像するだに恐ろしいが、当の私にはかすり傷一つなかった。まぁそれもこれも、全身に纏ったうさぎの着ぐるみのお陰だったのだろうが。 「だ、大丈夫みたいです…」 「そっか。よかった」  そう言ってニッコリと笑う彼。やばい、かっこよすぎる…。大人びてはいるが、見慣れた制服を着ているからうちの学校の生徒なのだろう。 「真壁ー!!どうしたー?!」 「ああ、急に看板が落ちてきたんです。大丈夫、怪我人はありません」 「ひゃっ…?!」  見れば、秋も深まってきたというのに半袖Tシャツの体育教師が、土煙を巻き起こす勢いで走って来る。真壁、と呼ばれた彼は不意にヒョイッと私を背におぶると、校舎に向かってスタスタ歩き出した。 「あ、あの…!」 「君、クラスは?」 「え?えと…2年1組です…」 「そっか。じゃあ1コ下なんだね。名前は?」 「天見…愛流です…」 「愛流ちゃんか。保健室まで連れて行ってあげるよ。今はどこも痛くなくても、後から痛くなってくることもあるしね。着ぐるみはクラスの誰かと変わってもらうといい」 「あ、ありがとうございます…」 (1コ上…3年生なんだ。真壁先輩、優しいなぁ…)  うっとりと温かな背中に身を任せていると、無情にもすぐに保健室に着いてしまった。重くなかったかな、と心配半分、残念な気持ち半分。誰かクラスメイトを呼んでくる、と言って保健室を出て行った真壁先輩を見送ると、私は着ぐるみを全部脱ぎ、制服姿になった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加