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静寂が一瞬の時を支配する。
「な、何をしやがった」
うろたえる男。
「特別な事など何もしてませんよ。触れただけです」
そう、ただ触れただけだった。少女は何の魔法も発動させていない。だからこそ男も動揺しているのだろう。
「せ、精霊魔導師!?」
精霊魔導師、それは四精霊のいずれかの加護を受けし特異体質の魔導師を表す。
僕の通う学園でも数人しかいない稀少能力(レアスキル)で間近で見るのは初めてだった。
「コレはお返ししますね♪」
と言う少女の正面には、先ほど男が作った龍形の炎(2周りほど大きい)が顕現する。
「ま、待ってくれ。俺が悪かった」
おろおろしながら一歩、また一歩と後ずさっていく。
少女は表情を変えないまま、そぉれっと、左手人差し指を天に向けて振り上げる。
龍は少女の動作に従い天高く昇っていき、パッと開いた手に合わせ、バンッと大きな音と共にゆらゆらと空に舞う火の粉となった。
程よく薄暗くなった空に大輪の花が咲いたようでとても綺麗だった。
少女は刀を鞘に収めながら、どうですか?と言わんばかりに愛くるしい笑顔を僕に向けてくれた。
これが僕、八神咲(やがみさく)と少女、梓川姫那(あずさがわひな)の8年振りの再会。
余談だが、龍が天へ向けて昇り始めた頃にはすでに男の姿はそこには無かった……
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