第一章 『物は言い様』

13/16
601人が本棚に入れています
本棚に追加
/393ページ
 その言葉にスプーンがぴくりとした。だがそれはほんの一瞬のこと、すぐにスプーンはそれ本来の役目を果たそうと奮闘を再開する。 「とある大企業の社長――女社長を護衛するのが今回の依頼。依頼主は彼女の秘書・・・・・・ということになってるわ」  チキンライスと半熟の卵が絡み合い絶妙のハーモニーを生み出す。熱々のそれを口に運べばそれはなお一層のオーケストラと化す。作りたてが上手くないのは漬物ぐらいだ――と思いながらも、実は浅漬けもリョウは好きだったりする。むしろ好き嫌いが無いのかもしれない。  一口飲み込めば、すぐに二口目を口にしたくなる。短期・連続的なリピーター続出のオムライスだ。 「敵は誰か、なぜ狙われているのか――――それは不明。教えてくれるのかもしれないし、教えてくれないのかもしれない。とりあえず依頼人は“あなたと会って話がしたい”そうよ。依頼するかどうかはそれで決める、とか」  傍目からは馬の耳に念仏といった様子で食事を続けるものだから、オムライスは早くも半分以上がリョウの胃袋に消えた。それでもペースは緩めない。大食い選手権並みのペースを維持する――彼がそんなに食うことは滅多に無いが。
/393ページ

最初のコメントを投稿しよう!