第一章 『物は言い様』

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 コルト社の傑作拳銃M1911をS&W社の部門パフォーマンスセンターが(合法的に)コピーしたカスタムモデル。全体的にシルバーのステンレス。フルアジャスタブルのリアサイトを持ち、精度も高いが値段も高い。ただしかなりの人気が出たのは皮肉である。 「“仕事が入ったから絶対に来ること、来なければ殺す……じゃなくて死ぬ”、って呪いか? しかも俺の予定は考えねぇのかよ――――いや何もねぇけどさ」  面倒くさそうにリョウは頭を掻く。何かしら急ぎの依頼が入った時は、このようにメールが来る。暇な時のリョウは大抵『アルカナ』に出向くからそれをチェックしなくても問題ないが、気づかなかった場合や緊急の依頼時は、リョウに分かる程度のバイブレーションが教えてくれる。  そんなことを考えながら一人ノリツッコミをしてから、彼はメールに返事を返すことにした。傍目からでも分かるほどの素早い親指捌きで、文章が打たれた。 「“行って殺してやる”、と。よし、これでOK」  そして送信。  文面だけなら物騒だが、これは二人の間でのジョークだ。二人のジョークは物騒でスリルでサスペンス。時には銃弾が飛び出す直前まで行くこともある。
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