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それでも二人にとってはジョークでしかない、『アルカナ』を訪れる人間にとっては時として生死を分けるジョークだが。
「……メシぐらいは用意しといてくれよ」
左腕に巻きつけた腕時計を見ると、針は丁度朝食時。ほとんど空っぽの冷蔵庫を思い浮かべて、リョウは一人そう呟いた。
いつものようにグローブを取替え弾倉と銃の交換を終えた後、丸いつばのついた灰色がかった黒の帽子と深緑色の長袖ジャケット、ホライゾン(水平)タイプのショルダーホルスター――バーティカル(垂直にも変更可能)――にマグポーチや携帯電話及び衛星携帯電話と簡易な救急キット等、そしてクラスⅢA(拳銃弾にほぼ完全対応、防弾防刃兼用のプレート入り)ボディアーマーを身に着けたリョウは愚痴っていた。ジャケットにはファスナーとボタンがついているが、ファスナーは全開で上から一番目と四番目、そして最後の五番目のボタンしか閉じられていない。
「…………せめて握り飯ぐらいは食っとくべきだった」
そう後悔してももう遅い。昨日から何も入っていない胃袋が悲鳴を上げるが、わざわざコンビニに寄る時間も惜しかった。空きっ腹を抱えながらの運転というのは時に命に関わる。
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