ただ君を…

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「別に助けてくださいなんて言ってませんよ」 「何だとテメェ!!」 稔麿の態度にイラッとした桂だったが、その腕を見て怒りを収めた 「…腕、怪我してんじゃねぇか 深いのか?」 「深いって程じゃありませんけど、当分の休養と… 練習量は増やさないダメですね」 「…そうか」 取り合えず安心とは言え傷を負っているのも、新撰組が辺りを探しているだろう事も真実 稔麿を立たせようと手を伸ばし、腕を組むように起き上がらせる やっぱり腕が痛むんじゃねぇか… 稔麿の表情は暗闇の中でも険しい 急いで隠れ場を探そうと桂は足を動かしたが… 「…逃げられちゃいましたね」 次の時には稔麿からそんな声が聞こえてきて… ガキの事だと悟った桂は直ぐに口を開いた 「お前、ガキの事好いてたろ?」 あんなのの何処がいいのかと思いつつ言ったものの 稔麿はその言葉に笑う 「まぁ引っかけで好きと言いましたけど… 本気じゃありませんよ 彼女は沖田が好きですから」 「…そうか…」 お前はキライな奴にそんな事死んでも言わねぇだろ 怪我すると多少は可愛くもなるんだなと頷ずけば 「桂さん、彼女は本当に私を殺そうとしたんです」 そんな言葉を稔麿は呟いた 「…お前は殺そうとしなかった でなきゃ怪我はしない」 「彼女は殺すには惜しいです 少しだけ、油断しただけですよ ただ…桂さん?」 「何だ?」 「…沖田が少しだけ、羨ましかっただけですよ」 「……」 本当に珍しい事もあるもんだ… そう思いつつ、向こうから中岡が走ってくるのが見え、安心を覚えた桂は口を開く 「まぁ生きてたんだから取り合えずいいだろうが このまま終わりにさせる人間じゃねぇだろお前は」 「当たり前です 長州の者達は殺されました 新撰組を…幕府をあのままにする気はありません 日与はそれまでに新撰組に染まってなければ… 助けてあげても良いですけど、違ければ斬りますよ 遊ぶと楽しいですから」 そんな何時もの感じに戻ってきた稔麿の言葉に 桂は少し笑った そして今… 吉田稔麿 池田屋時点にて死ぬはずの彼が 生還した瞬間であった
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