496人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
拍手喝采。
スタンディングオベーション。
鳴り止まない歓声。
ここは、歌手なら一度は憧れる日本武道館。
その会場を埋め尽くす溢れんばかりの観客たち。
そしてその先には、マイクを片手に歌い続ける三人組がいた。
日本国内で、知らない人はいない……とまではいかないが、現在、日本のトップアイドルとえるBRAND-NEW-WINDのメンバーである。
小柄で可愛らしい少年に、長身の常に笑顔を貼り付けた青年。
そして中央には、二人の背のちょうど中間辺り、優しく微笑みながら歌を紡ぐ青年がいた。
どうやら歌い終わったようで、両端の二人は客席へと笑顔で大きく手を振っている。
真ん中の青年は緊張とは違うようだが、どこか表情は硬く、小さく手を振っているだけだった。
それでも会場は割れんばかりの歓声。
すでに何を言っているかさえ分からない叫び声が響き渡っていた。
長身の青年や小柄な少年は、何やら話しているが、真ん中の青年はとくに何も言わず、二人の話の聞き役に回っていた。
そして本日最後の曲のイントロが流れ始める。
周りからはまた何かを叫ぶ声。
一人ずつ何かをマイク越しに叫び、それへと返事するように叫ぶ周りの声。
そして最後、先ほどから余り言葉を発しなかった青年の番となった。
『あっ、と……何を話せばいいか、まったく考えてなかった……』
頭を掻き、すまなそうに話す青年へ、また聞こえる観客の叫び。
『だけど……まあ……次で最後だから……楽しんで欲しい!』
どこか照れたように、語尾を強めて話された言葉。
そして歌が始まる。
スローな曲調に、会場が酔いしれていった。
最初のコメントを投稿しよう!