『溶けゆく雪と』

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 今日は二月の十四日。バレンタイン。冬もそろそろ終わりという時期だ。そんなこの日の夕方に、今の季節を思い出させるかの様に雪が降った。  来る春に負け気味な、弱々しいながらとても綺麗な牡丹雪がヒラヒラと降り続き、止むことが無いまま夜になった。  僕は友達の女の子と二人で夜道を歩いている。ただ単に家が近いとの理由で、いつも一緒に帰路についているだけなのだが。  そんな半ば習慣にもなった日々の、たまたまこの日がバレンタインと言うのが少しぎこちなさを覚える。  それが原因かは知らないが、いつもとはうってかわり結構な沈黙が続いていた。  しかし彼女がその凍った様な沈黙を初めて溶かす。 「あ~あぁ、でも牡丹雪って降っても積もらないんだよねぇ。せっかくのホワイトバレンタインなのにぃ」  その事が残念でならないのか、僕の隣で白く染まった溜め息を吐き出しながら言葉を漏らす彼女。 「いやぁ見る限りじゃ結構、積もってる様な気もするけど。まぁ、少しやわらかい感じだけどさ」  僕は歩きながらも一瞬だけ屈み、地面の雪を少しだけ掬い取って掌でもてあそぶ。  この日の雪景色は彼女も言った通り、差し詰めホワイトバレンタインとでも言うのか、目に見えて雪は積もっている。 「違う。私が言いたいのは、塵が積もって出来た山なんて高が知れているって話よ……今は積もってても、牡丹雪は止めば忽ち溶けちゃうの」  確かに淡い感じの牡丹雪は太陽に照らされたら今にも溶けそうだが、塵と比較するのは如何なものか。  その彼女の物言いに、はぁ、と頷き相づちを打つ。何か難しい言い回しをするんだなと思い、次の言葉が見当たらない。  そんな少しだけの、再びの沈黙の後に彼女が話しだす。 「それよりさ、今日はバレンタインなのに予定とかないんだ?」  心に痛い事をサラリと訊いてこられるのは中々に辛いのだが、感情が顔に出ない様に努めた。  まぁ、この日に暇なら普通そう思われるのが当然か。 「無いから君と帰ってるんだけど。君も似たようなもんなんだろ?」  すると彼女はギクリとした表情をした後に、苦笑いのまま言う。 「あぁ……痛い事を訊くねぇ君はぁ。いい? 失礼だよ、そういうのは」  全く、自分から訊いておいて、失礼だの何だのを言われる筋合いは無いのに。  そう言ってやろうと口を動かした矢先、ふと目の前にコンビニが見えたので口を噤む。
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