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デカデカとバレンタインに関係したような広告やらが貼り出されている。
僕は特に立ち寄るつもりも無かったのだが、何故かその前で僕も彼女も足が止まってしまっていた。
「チョコ買ってあげようか?」
彼女の突拍子の無い発言に僕は一気に声が高くなる。
そりゃ僕としてはとても嬉しい提案なんだけれども。
「い、いいよ! 悪いっての! そう簡単に誰かにホイホイあげちゃ駄目だろそういうのってさ」
何故か僕は、まるで貞操観念の様な事でも説くような事を口走っていた。言ってから気付いて恥ずかしくなる。顔も赤いだろうが、それはあくまでも寒さのせいだ。
「へぇ~いらないんだぁ~。顔赤いよぉ~」
彼女は目を細めて僕の顔を覗き込もうとするので必死に顔を反らして、そうだと言う。
「素直じゃないねぇ君はさぁ。そういう時はありがたく頂くものだよ。それに、この日のチョコには義理チョコなる便利な制度もあるのだよキミィ。私から貰え無かったら、後は家の人からしか貰えないんでしょ、どうせ」
今度はニタニタと笑いながら語り掛けてくる。
「失敬なっ。家族にはチョコはいらないと予め言ってある。今日はチョコを渡すか貰うかする日であって、チョコを食べる日では無からね」
すると彼女は怪訝な顔をして言う。
「何が失敬なのかは解らないし、君の言う通りの日なら尚更、家族の気持くらい貰ってあげても良いんじゃないの?」
痛い所を突かれた。確かに彼女の言う通りだっので、苦い気持で一杯になる。
「それに、私はそういうチョコではないんだけどなぁ……」
何か良く解らない言い回しをする彼女。
そういうチョコではないって、どういうチョコなのだろうか。
僕にはその言葉の意味するところが解らなかった。
「脈絡が無さすぎだ。何だよそれ、どういう意味だ?」
しかし、その質問に彼女は答えず僕の手を掴むとコンビニの中へ引っ張ろうとする。
「良いから、貰える物は大人しく貰っておくっ」
僕と同じく、寒さで赤く染まる彼女の顔はどことなく怒っている様な、それでいて笑っているような、表情からも声からも言葉からも彼女の考えている事がわからない。
「あ……あぁ、わかったからそんなに引っ張らないでくれ……雪で滑るよ」
僕は彼女の為すままに、コンビニの中へと引っ張られるのだった。
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