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ね!と楓が振り返ると、目の前に深紅が広がる。視線をずらして少し上を見れば、薫と同じ黒がいた。
「おかえり、べにこ」
深紅は大量の薔薇で、黒は刹那が着ているシャツだった。
同じ黒でも刹那の場合、純粋な黒である。光さえも吸収してしまう、ブラックホールの様な黒。
上から下まで真っ黒な彼は、名前を刹那といい、薫とは違い、天然パーマの入った黒髪を首の付け根まで伸ばしている。
ずい、と差し出された薔薇を紅子は満面の笑みで受けとる。
「お前は相変わらずだね、刹那。よくあたしが帰ってくるのが解ったね」
「…ん。めだつ、から。すぐわかる」
刹那はこくんと頷いて紅子の隣に座る。楓は未だ紅子に抱きついたままだ。
「枯れない内に生けましょう」
薫の言葉に紅子は薔薇を彼に渡した。再び開けた視界に、今度は茶色が入る。
「お帰りなさいませ、マイマスター」
聞こえてきた二重の声。紅子の視線の先には同じ顔が二つあった。
「お前達も相変わらずだね。光(コウ)に影(ヨウ)」
くすくすと楽しそうに笑えば、二つの同じ顔は同じタイミングで頭を下げる。
「マスターもお変わりなく」
「お綺麗で」
同じ顔の二人は、交互に話すと、再び同じタイミングで頭を上げた。そして紅子達がいるカウンターの内側に入る。
それを見届けた紅子は、ゆっくりと馴染みの顔を見回した。
「さぁ坊や達、今日も華麗に踊りなさい」
夜の幕があける。
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