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歓楽街として名を馳せるバーリアルが賑わうのは、太陽が沈みきる前の、世界が朱に染まる時間。ぼんやりと暖かい光を侵蝕するように賑やかな明かりが次々と灯っていく。
「今日は刹那がお留守番かい?」
自分の向かいで黙々とグラスを拭く男を見て紅子はスツールに腰掛けた。刹那はちらりと紅子に視線を向けると、再びグラスを拭く作業に戻る。
「……かおる、は?」
「珍しく若い子引き連れて外回りしに行ったよ。ふふ、あの格好は久しぶりに見たねぇ」
カウンターに頬杖をついて、紅子は至極楽しそうに笑う。刹那も彼女の言う珍しい薫を想像して、小さく笑みを溢した。
「刹那、赤を頂戴」
紅子が刹那の丁度真後ろにあるワインクーラーを指した。刹那は拭いていたグラスを片付けると、僅かに首を縦に振りワインを注いだ。
ふわりとワイン独特の香りが鼻腔を擽る。
「ありがとう」
「それ…おいしかった」
上目遣いにおずおずと告げると、刹那はまた俯いてグラスを拭き始めた。
「ん……確かに美味しいわね。薫が買ってきたの?」
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