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漆黒の宵。
真っ白な砂浜、深い紺碧の海。
星屑のような白い砂を踏みしめて歩くのは、すらりとした細身の青年。
風に吹かれればさらりとなびく髪は月光を思わせる銀色で、どこか憂いを帯びた瞳は深い蒼。
青年の頭上には、彼と同じ輝きを放つものがある。暗闇の中でも己を見失うことのないそれは、今夜も変わらず青年を見下ろす。
果たしてこれからの逢瀬を見守ってくれているのか、或いは冷たく咎めているのか。
青年は一瞥もせず砂浜を歩く。時折、片手に持つ鈴を鳴らしては耳を澄ました。だが聞こえるのは寄せては返す波音ばかり。
あぁ、今夜はいないのか――そう思った矢先、彼の耳は波音に混じった鈴の音をとらえた。
すぐに自分の鈴を鳴らす。すると今度ははっきり、相手の鈴が聞こえた。
そうなれば、凡その場所は分かる。待ちきれないとばかりに、青年は月明かりの砂浜を駆け出した。
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