月夜

3/3
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 キーリは波打ち際にある岩の陰に身を寄せながら、大きな銀色を見上げていた。  本当に、何度見ても、あの美しさには息が詰まりそうになる。キーリが暮らす海の底にも、あれほど美しいものはない。  けれども、わざわざ人目を忍んでここまでやってきた理由は他にある。キーリは岩に背を預け、目を閉じた。そうして意識を耳に集中させる。  聞こえてくるのは寄せては返す波の音ばかりで、キーリが期待する音色はなかなか訪れない。  焦ることはない。ゆっくり待てばいい。夜は、あの銀色が沈んでしまうまで続くのだから―― 「あっ」  聞こえた。  キーリは目を開けると、手に持っていた鈴を夜空に掲げるようにして鳴らした。  波音にも似た澄んだ音色は、しかしきっと彼に届くだろう。そうして彼はここに来てくれるはずだ。  また、どこかで鈴が鳴る。さっきより近い。同じように鈴で自分の居場所を伝えながら、キーリはどうしようもなく心が逸るのを抑えることができなかった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!