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キーリは波打ち際にある岩の陰に身を寄せながら、大きな銀色を見上げていた。
本当に、何度見ても、あの美しさには息が詰まりそうになる。キーリが暮らす海の底にも、あれほど美しいものはない。
けれども、わざわざ人目を忍んでここまでやってきた理由は他にある。キーリは岩に背を預け、目を閉じた。そうして意識を耳に集中させる。
聞こえてくるのは寄せては返す波の音ばかりで、キーリが期待する音色はなかなか訪れない。
焦ることはない。ゆっくり待てばいい。夜は、あの銀色が沈んでしまうまで続くのだから――
「あっ」
聞こえた。
キーリは目を開けると、手に持っていた鈴を夜空に掲げるようにして鳴らした。
波音にも似た澄んだ音色は、しかしきっと彼に届くだろう。そうして彼はここに来てくれるはずだ。
また、どこかで鈴が鳴る。さっきより近い。同じように鈴で自分の居場所を伝えながら、キーリはどうしようもなく心が逸るのを抑えることができなかった。
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