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後奏まで全部弾き切ることは潤人は出来なかった。
涙が止まらず、息をするのもやっとになってしまったからだ。
弾こうとすることを辞め、口に手を当て嗚咽を漏らす。
そんな潤人の姿に会場は騒つく。
潤人はイヤモニを外し、ピアノの上に置く。
「……ないで……」
あたしだけに微かに聞こえた潤人の声。
でも何て言ったのか……。
あたしは潤人の元へと歩み寄る。
歩み寄るというか……足を床に引きずるようにして飛んで行く。
眠くて……本当に眠過ぎて……もう高度も保てないみたい……。
くっ……お願い、後少しなんだから……動いてよ……!
なんとかピアノにたどり着き、潤人の隣に立つ。
「潤……人……?」
「……消えないで……」
絞り出すかのような、か細くかすれた声。
「行かないで菜々花……!」
涙でぐちゃぐちゃになった顔であたしを見上げる潤人。
あたしが今日消えるってこと、気付いてた……?
「菜々花を……愛してる……」
潤人が……
泣いてる……
あたしの大好きな潤人が
あたしを好きだと言って
泣いている……
泣いているよ……!
泣かないで……
潤人にこんな顔させたくない
潤人に悲しい思いなんか微塵もさせたくない。
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