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「佐野せんぱーいっ」
しばらく話していると、グラウンドから大きな声を出し始めた野球部員達。
時間を見れば、もう練習が始まる頃だった。
「もう時間だ。
ごめんね、笑ちゃん」
「あたしこそいつも話に付き合わせちゃって…」
立ち上がった翔さんに、少し寂しさを感じながら口を開いた。
翔さんはそんなあたしの頭をクシャッと撫でた。
「俺こそ。
また明後日来るし、そんな寂しそうな顔しないで」
「さっ…寂しそうな顔なんてしてないよっ。
ほらっ、早く練習行かなきゃ」
見透かされて、一気に顔が赤くなる。
翔さんはクスクス笑いながら手を振りグラウンドへ駆けていった。
「はぁ…」
翔さんの後ろ姿を見送りながら溜め息が出た。
どんなに頑張ってもあたしはあんな風に走る事が出来ない。
翔さんの隣を歩くなんて無理なんだ。
「翔さん…好き」
他の人みたいにあたしが車椅子に乗っている理由を聞かない翔さん。
それが、むやみに心の中に踏み込んでこない翔さんの優しさのような気がしていた。
いつも優しくて暖かい翔さんを好きになったのはいつだったのか…。
もしかしたら初めて会った日からかも知れない。
でも、好きだなんて言えるわけない。
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