†第0章† クロノエルム

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「おじいさん、どうなされたのですか?」 「…………………っ。」 老人は何かを必死に伝えようとしていたが 声にはなっていない。 「駄目だ。 俺、誰か呼んでくるよ!」 京介がそう言い 立ち上がろうとした。 しかし それは老人の手によって妨げられた。 「…………………あ…あ、あれ………。」 老人は必死の形相で 何かを指指した。 その指の先には 一本の木があった。 やけに低木だが 真っ赤な葉が横に大きく広がっていて 木の存在感を醸しだしていた。 「あ、あれを……………とって……………く…れ。」 息も絶え絶えになりながら 老人はそれだけを伝え 苦しそうにした。 木のちょうど中央 葉に埋もれたところにこれまた真っ赤な木の実がなっていた。 小さな木の実で 注意しなければ見つからない程の物。 何故老人はそんな物を欲するのだろうか。 とにかく今は気にしている暇はない。 老人は今にも息を引き取りそうな様子だ。 「あの実を取ってくればいいんですね? 待ってて下さい!」 翔一は駆け出した。 木の所まで向かうと 実を手にし、すぐに戻ってきた。 「おじいさん! 持って来ましたよ。」 翔一は震えるおじいさんの手に 小さな木の実を渡した。 「うぅ……………ぅ………。」 おじいさんは小さく呻きながら 木の実を口にほうり込んだ。 2、3回噛むと ゴクンと飲み込んだ。 暫しの沈黙……。 おじいさんは動かない。 10秒後 おじいさんの体に驚くべき変化が現れた。 体中にあった無数の傷が 急激な勢いで癒えていったのだ。 みるみるうちに 顔に血の気が戻り おじいさんはゆっくりと身体を起こした。 「…え!? な、何が………。」 京介は驚いて おもわず身をたじろいだ。 翔一は唖然とするだけである。 「やぁー、君達ありがとう。 本当に助かったよ。」 おじいさんはそう言うと 勢いよく立ち上がった。 「何かお礼をしたいものだが…………あいにく、今は何も持っていなくてね。」 おじいさんは嬉しそうに 二人の顔を交互に見た。 「…………………。」 二人は黙ったまま 口を動かそうともしない。 「………………? どうしたね?」 「…………ぇ、いや。 ………今のはなんですか?魔法か…なんかですか?」 「…………? ファイの実を知らんのかね?」 「ファイの実? 聞いたことありません。 っていうか、ここはどこです?」
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