†第0章† クロノエルム

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ここは首都から 少し離れた住宅街。 首都圏のガヤガヤした喧騒も 陽の光を遮る背の高い高層ビルや 高層マンションもない。 きれいに均された広めのコンクリートの道路の両脇に 落ち着いた感じの日本風家屋が立ち並んでいた。 家の前には青々とした芝生に 色とりどりの花が咲いていて もうすぐ春を迎える庭は どことなく嬉しそうに見えた。 こんな朝の静けさが いつまでも続くと思っていたが 突如、静寂を破る音が 一軒の家から鳴り響いた。 「行ってきま~す!!!」 壊れんばかりの力で押された家のドアは 鈍いを出しながら 限界まで開いた。 この限界というのは ドアの機能的な限界というよりも ドアの開く角度の限界という意味になる。 まあ、つまりは180゜ぎりぎり 壁すれすれということだ。 その壁に穴が空いているようだが 気のせいだろうか。 見なかったことにしておこう。 ドアを押し開けた張本人は 既に庭を駆け抜け 門を開けて 道路に飛び出していた。 ランドセルを背負った少年だった。 彼の名は 「翔一」 この物語の主人公の一人。 短い黒髪で 背は低めとは言えないが つまりは普通だろう。 ランドセルの中身が ガチャガチャと踊り狂うのに、気にもせずあっという間に住宅街の角を曲がって 見えなくなった。 翔一がランドセルを背負い この道を通るのも あともうすぐで終わる。 翔一は小学校6年生。 卒業式までの数週間を 思いっ切り楽しんでいたのだった。
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