†第0章† クロノエルム

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「わぁ~!すごいキレイになってる!」 そう言ったのは 言わずと知れた この店常連客の翔一である。 以前は 入り口付近まで迫っていた大きな棚は 店の脇まで移動され 代わりに新作ゲームのショーウインドーが置かれていた。 これなら背の低い子供でも 楽に商品を見ることが出来る。 他にも照明が明るくなっていたり レジ周りがキレイになっていたりと 京介の父親が熱心に作業したことが良く分かる。 感心している翔一をよそに 京介はさっさと店の奥に進んでいく。 翔一は慌てて 京介の後についていった。 「父さ~ん。」 京介はそう言って レジ奥のドアを開けて 中に入った。 どうやら このドアからは普通の家に繋がっているらしい。 翔一の思った通り 中を覗くとそこには フローリングの床が敷かれた廊下があった。 「へぇ、こうなってるんだ………。」 翔一は何度も店に来ているが 家までには入ったことがなかった。 京介は廊下を進み つき当たりにある部屋のドアを開けた。 その部屋はリビングになっているらしい。 「父さん、 友達連れてきたよ。」 部屋には30代後半の男性がいた。 髪は京介とそっくりな黒。 短髪に丸い眼鏡がよく似合っている。 彼は部屋いっぱいに 積んである段ボールから何かを 丁寧に取り出していた。 京介の声を聞くと 彼は手を止め 顔を上げた。 「おう、京介。 もう友達を作ったのか、早いな。 こんにちは。名前は?」 「翔一です! おじゃまします。」 「おうっ、元気のいい子だな。京介と仲良くしてやってな。」 「はい!任せて下さい。」 「よしっ、これ持っていけ。」 そう言って彼は翔一に何かを手渡した。 それは……… 「いいんですか!? これ貰っても………!?」 新作のゲームだった。 まさに翔一が欲しがっていた、ゲーム。 しかも一番乗り。 「ああ、京介の友達だったらな。ただし、これ手伝ってくれるかい?」 彼は床に置かれている無数の段ボールを指差した。 「は、はい! もちろんです。 あ、あの、ありがとうございます。」 「いいのいいの。 さ、京介も手伝うんだよ。」 「分かってるよー父さん。」 こうして翔一は京介と一緒に ゲームを店頭に並べる仕事を 手伝うことになった。 「良かったね、ゲーム貰えて。」 京介はゲームを棚に ひとつひとつ並べながら言った。
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