甘い恋の歌

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「へぇ~。橘さんって 面白い人ですねぇ。」 大学からの帰り道。 総司は春から 美姫の話を聞いてそう言った。 「ただ、美姫も副長も あたしの大事な人だから 気が重いんですよ。」 春はフゥッと息をつく。 土方を紹介してくれと 頼まれたのが 普通の友達だったら 春はきっぱり断っていただろう。 美姫はめったに 頼み事をしない。 その美姫が あれだけ必死になるのは 珍しいことなのだ。 邪険にはしたくない。 「まぁ、大丈夫ですよ。」 総司がさりげなく春の手を取り 指を絡ませてきた。 そして春を見て、ふわり、と笑う 「…。」 春はその笑顔に見惚れた。 どうしてこの人が笑うだけで すべての不安が消えていくような 気がするのだろう。 「…ケホッ!」 春も手を握り返した瞬間、 総司が小さく咳をした。 「総司!?」 春は一気に血の気がひいて 声をひきつらせる。 「嫌だなぁ。 なんて顔してるんですか。 ただの風邪ですよ。」 総司が笑いながら言った。 「本当に?」 “咳”は総司の死を 嫌でも思い出させる。 「本当です。 あなた、私が咳をする度に そんな顔するんですか? 普通の風邪も ひけないじゃないですか。」 「だって…。」 春は下を向いてしまう。
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