甘い恋の歌

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「えぇ!?来れない!?」 総司の季節外れの風邪も治り、 2週間程たったある日。 理学部棟の片隅で 春は落胆の声をあげていた。 「すいませーん!! 急にゼミがズレちゃったんです。」 総司が顔の前で両手を合わせる。 「3人で会うって…。 場が取り持てるか不安ですよ~」 この日は、いよいよ 土方と美姫を 対面させる日だったのだ。 総司と春、美姫と土方の 4人で食事をする予定であった。 「土方さんと橘さんにも 謝っといて下さいね。」 総司は本当に申し訳なさそうだ。 「分かりました。 しょうがないですから 気にしなぃ…」 春が肩を落とし、 そこまで言いかけていると 「総司ーーー!! 何してんのぉ!?遅れるよー!」 パタパタと1人の女子が 走ってきた。 「あ、清田さん。 分かりました。すぐ行きます」 総司は1度その女子を振り返り、 「じゃぁ、春。また。」 春に軽くささやく。 「え!?もしかして彼女サン!?」 その間に清田と呼ばれた人が 凄い早さで 春の顔を覗きこみに来ていた。 「ちょ!清田さん!」 総司は照れて、少し慌てている。 「かっわいい~♪ よくできたお人形みたい!! 名前は??」 「えと、その…。」 清田の早いテンポに 春はタジタジとしてしまう。 「水無月春って言うんですよ。」 総司が変わりに答えてくれる。 「へぇー。綺麗な名前だね! 私は清田ありかって言うんだ。 総司と同じゼミだから、 これからも会うかも! だからよろしくね。」 ありかは大きな二重瞼で、 眉がキリリとしており、 笑うと八重歯が見えた。 なかなか愛嬌がある顔立ちだ。 「はぃ…。」 春は気圧されたまま頷く。 「さ!行こ!総司。 じゃぁ、またね。春チャン☆」 ぐいぐいと総司を引っ張って ありかはずんずん歩いて行く。 「夜メールしますね~。」 総司の声が小さく聞こえた。 その場にポツンと残された春は 大きくため息をつく。 (なんか…。 突風みたいな人だったな。) しばらく突っ立っていたが、 土方達との待ち合わせの 刻限が迫っていることに気付き、 春は慌てて理学部棟を出た。
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