言葉はいらない

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「さ、さぁ? 分からないです……。」 春は肩を落として答えた。 総司はタンスの傍に駆け寄る。 「総司、写真がどうした??」 タンスの下に這いつくばって 何かを探している総司に向かって 土方が訊いた。 「何となく。予感がするんです」 総司は顔も上げずに答える。 「ちょっと待て。 落ち着いて説明しろ。」 土方が語気を強めた。 「沖田先輩……。 写真ってこれのこと?」 美姫がベッドの隙間から 小さなプラスチックの 固まりを拾い上げた。 美姫が立っていた位置からは 壁とベッドの隙間が よく見えたようだ。 「!!!」 総司は息を呑む。 顔面は蒼白だった。 …………間違いない。 あの写真立てだ。 総司は手を震わせながら 美姫から写真立てを受けとる。 尋常じゃない総司の様子を 春はオロオロしながら見ていた。 総司はゆっくりと 写真立てを表にひっくり返す。 ドクンッ!! 総司の心臓が、一度強く打った。 「おい、総司!! その写真が何なんだ!?」 じれったそうに土方が言う。 横から写真を見ていた美姫も その写真があまりに 奇妙なことに気づいて、 口元に両手をあてている。 「貸せ!!」 土方が、写真を奪った。 写真を見た途端に、 土方は言葉を失う。 カシャーン。 土方の手から、プラスチックの 写真立てがすべり落ちた。 写真には、春と総司が映っている 長い髪の総司と 長い髪の“今”の春が……。
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