言葉はいらない

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「そ、んなのっ!! 春は悪くないじゃん! あんなことされたら 抵抗して当たり前でしょ!?」 都が机をドンッと叩く。 「同感です。 でも……春はそう思わなかった。 無意識に自分を否定した。 その気持ちは、 私にも分かるんです。」 総司は自分の掌をじっと見つめた 総司の目には 血のついた両の手が見える。 自分は多くの人の命を 奪ったことがある。 たとえ志のためでも それは逃れられない事実……。 「人斬りの記憶をなかったことにしたかったけど、過去は変えれない。 だから拒絶した記憶の部分だけが 幕末でさ迷ってるの?」 優が痛ましそうに 目を細めて写真を見た。 「馬鹿だよ。春は。 ほんっと馬鹿。」 美姫は自分の膝に顔を埋める。 その震える肩を 土方の力強い腕が支えた。 「一番の問題は、 幕末にいるはずのない “今”の春が、過去の春と 入れ替わっていることだ。 未来が変わる可能性が出てくる」 土方が皆の顔を見回す。 総司が引き継いで言った。 「私達は出会わなかったことに なるかもしれないんです。 お互いのことが何も 分からなくなるかもしれない。」
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