言葉はいらない

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「なっ……?え?えぇ?」 総司は斎藤の顔を指さしたり 天井を見上げて 首をひねったりする。 状況がさっぱり分からない。 斎藤は楽しそうに笑った。 「安心しろ。 ここは屯所じゃない。 祇園に二部屋借りた。 ここにしばらく 寝泊まりすれば良い。」 「ありがとうございます…って、 そうじゃなくてっ なんで斎藤さんが??」 総司は自分の服装を確認する。 薄手のパーカーと、スラックス。 間違いなく洋服を着ている。 幕末での仲間である斎藤が “今”の自分に違和感なく 接するのはおかしいのだ。 斎藤は笑いを引っ込めて 真面目な表情で答えた。 「突然幹部と相部屋。 男には見えない容貌。 ……同じ部屋で生活していて 何か訳ありだと 気づかない方がおかしい。」 「それっ、て……。」 「水無月のことだよ。 悪いが少し調べたんだ。 水無月が先の時代の人間だと 俺は知っている。」 総司の頭は混乱してきた。 「そんな素振り一度も……。」 自分の記憶を思い起こしても 記憶の中の斎藤は いつもと一切変わらない態度を 取っていた気がする。 しかし冷静に考えてみれば 人一倍勘の良い斎藤が 何も気づかない方がありえない。 「新撰組に害を与える 人間ではないと分かったからな。 わざわざ事を荒立てる 必要もないと思ってるんだ。 今屯所にいる方の あんたにも水無月にも 俺は何も言わなかっただろう?」 「で、ですよね。 覚えがありませんもん。」
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