言葉はいらない

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「沖田さんが起きるまでに、 事情は全て聞いた。 今俺が見ている水無月は 水無月であって水無月じゃない。 そういうことだな?」 着替えている総司に向かって 斎藤は重たげな口を開いた。 「そうです。 あの春は平成の世で 私達と関わった記憶も 持っている筈なんですよ。」 総司は慣れた様子で 和服に袖を通す。 そのとき、無遠慮に 襖が開けられる音がした。 動作ひとつとっても その人の人柄が出る。 「直接会ってみれば 良いんじゃない?」 うぐいす色の着物に 身を包んだ冬馬が あっけらかんと言い放った。 「それで解決するなら 苦労しませんけどね。」 総司は浅くため息をついて、 袴の紐をきつく縛る。 「沖田さんの言う通りだ。 今の水無月は 幕末で生き抜くことしか 考えていないように思える。」 斎藤は冬馬を見もせずに ポツリと呟く。 「“帰ろう”って 呼びかけただけで “はいそうですね”って 納得できる位なら こんなことになってないよね。」 優が頷いた。 「それに……この時代には 前世の沖田先輩も いるんですよね?」 都は畳の目をいじりながら 確かめるように斎藤を見る。
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